はじめにThunderbird のメッセージ格納形式である mbox 形式と maildir 形式の特徴、管理機能である「フォルダーを修復」と「フォルダーを最適化」の役割の違い、それらの組み合わせに関するいくつかを、ざっくりとですがまとめておこうと思います。
そう思い立った理由は、これまでも知り合いの Thunderbird ユーザーから maildir 形式に関する質問を受けたことはあったのですが、今年 4 月以降に数人から同じような質問を受けたので、Thunderbird ユーザーの中で関心が高まっているのかな、と考えたことがひとつ。すでに maildir 形式を使っているユーザーからは、「フォルダーを修復」と「フォルダーを最適化」についての質問を受けたことが過去に何回かあったので、その点にも問題意識が向きました。
ご承知の方にはいまさらな内容ですが、それぞれの関係性に注目してまとめておくことにも意味はあろうかと思いますので、このフォーラムのスペースを使わせていただきますことをご容赦ください。
以下、メニュー名や設定名などは、現時点での現役バージョンである Thunderbird 60.x 系の Windows 向け日本語版の表記を基準にしています。
-- おもな内容 -----------------------------------------
(1)全体の概要(2)メッセージ格納形式の概要 (2-1)
mbox 形式 (2-2)
maildir 形式(3)管理機能の概要 (3-1)
フォルダーを修復 (3-2)
フォルダーを最適化---------------------------------------------------------
(1)全体の概要Thunderbird で送受信したメール(メッセージ)の保存(格納)形式の違いが、mbox か maildir かの違いです。
現在の Thunderbird は mbox 形式が初期設定ですが、任意に maildir 形式に切り替えることができます。それぞれの形式には特徴があり、利点もあれば弱点もあります。
そして、保存メールを適切に管理するため、あるいは問題改善のため、「フォルダーを修復」や「フォルダーを最適化」の機能があります。
全体の関係性をおおまかに示すと、次のようになります。(表は等幅フォントで最適化)
┌──────┬────────┬──────────
│\\\\\\│フォルダーを修復│フォルダーを最適化
├──────┼────────┼──────────
│mbox 形式 │実行する意味あり│実行する意味あり
├──────┼────────┼──────────
│maildir 形式│実行する意味あり│
実行は不要・無意味└──────┴────────┴──────────
(2)メッセージ格納形式の概要(2-1)
mbox 形式Thunderbird 上の1フォルダーに存在するメール群を、システム上(プロファイル内)では1ファイルで保存する形式です。
例えば、Thunderbird 上の [受信トレイ] に 100 件のメールが存在するとき、プロファイル内の実体ファイルである Inbox ファイル(拡張子なし)には、100 件分のメールデータがまとめて保存されています。
送受信した個々のメールデータを散逸させず一元管理するのには適していますが、実体ファイルの肥大化が起こりやすいのが弱点です。実体が1ファイルだけなのでプロファイル内の構造はシンプルですが、実体ファイルが破損すればすべての保存メールを一気に失う危険もあります。
(2-2)
maildir 形式Thunderbird 上の1フォルダーに保存されているメール群を、システム上(プロファイル内)でも1メール1ファイルで保存する形式です。
このファイルは eml 形式であり、Thunderbird から [メッセージを保存] を実行したとき保存されるファイルと実質的に同じフォーマットです。
例えば、Thunderbird 上の [受信トレイ] に 100 件のメールが存在するとき、プロファイル内の実体フォルダーである Inbox フォルダー配下(Inbox\cur\ 内)には、メールごとの 100 個のファイルが保存されています。
1メール1ファイルなので、mbox 形式おける実体ファイルの肥大化のような心配はありません。一蓮托生的なデータ消失も起り難いです(皆無とはいいません)。バックアップやメールデータのマージを、増減のあったファイル群の処理だけで実行できるのも利点です。
半面、受信したメールの数だけファイルが存在するので、[受信トレイ] に 5 万件のメールがあれば、実体フォルダー内にも 5 万個のファイルが存在します。当然、プロファイル内の構造もファイル数に応じて複雑になり、要約情報の管理が煩雑化します。プロファイルを直接手動操作するメンテナンスやトラブルシューティングでは、個々のファイルが散逸しないよう十分な注意が必要です。
(補足)
ひとつのアカウント内に mbox 形式のフォルダーと maildir 形式のフォルダーを混在させることはできません。あくまで、アカウント単位でどちらの形式を使うか、です。
(maildir 形式についての現状における注意点)maildir 形式は、Thunderbird 38 から実装が始まりました。最初期のころは実際に試してみてもトラブルが多く、とても常用できるレベルとは思えませんでした。この時点で Thunderbird の開発は Firefox の ESR 版に準じたペースになっていましたから、メジャーバージョンごとの大きな仕様変更はほぼ1年に1回というゆっくりしたペースです(38 -> 45 -> 52 -> 60 -> (68) ……)。
致命的なトラブルもあった最初期以降、mbox 形式を使うか、maildir 形式を使うかは、[オプション] -> [詳細] -> [一般] -> [高度な設定] にある [新しいアカウントのメッセージ格納形式] を切り替え、そのあと新規に作成したアカウントは選択した形式にできる機能として継続してきました。
Thunderbird 60.0 では、既存のアカウントのメッセージ格納形式を変換する機能が搭載されました。
それなりに進歩しているわけですが、現時点ではまだ、実験的 (Experimental) な機能の域を出ないものであることに注意してください。
(一例)
・Thunderbird 60 の新機能 | Thunderbird ヘルプ
support.mozilla.org/ja/kb/new-thunderbird-60#w_maildir-aggaeeoeeacl
Thunderbird ヘルプ さんが書きました:
Maildir の実験的機能
フォルダーを mbox 形式と maildir 形式またはその逆方向へ変換
Thunderbird のストレージシステムである長期的な目標の maildir 形式の実装を維持するため、既存のフォルダーを maildir 形式から相互に変換するツールがこのリリースに含まれています。maildir 形式の一般的な実装についての詳細は、Maildir in Thunderbird の記事をご覧ください。maildir 形式を利用するすべてのユーザーは、この機能がまだ実験段階であることに注意してください。データを失ってしまうような未知のバグに遭遇する可能性があります。
"実験的" という位置付けとも相まって、この機能を使うには、設定エディター (about:config) から mail.store_conversion_enabled の値(初期値 false)を true に変更する必要があります。
(補足)
バージョン 68 がナイトリーの 68.0a1 だったころ、この初期値が true になっていたことがありますが、あくまでナイトリー版での積極的な実験の一環だったようで、ベータ版(現時点の最新は 68.0b5)では初期値 false に変更されています。この分なら、68 の正式リリース版も false のままなんじゃないでしょうか。つまり、デフォルトでは無効化された "実験的機能" の状態が続く可能性が高そうです。
(注意点)
この変換機能で形式を切り替えたとき、既存形式のデータはそのまま残して、新たに選択した形式のデータ群が追加構築される点に注意してください。
例えば、mbox 形式で設定していたアカウントを maildir 形式に変換した場合、元が <accountName> フォルダー内に保存されていたとしたら、変換後のメールデータは新しく生成された <accountName-maildir> フォルダー内に保存されます。変換後のメールの送受信結果は <accountName-maildir> 内に保存されますが、変換時点のデータを持つ <accountName> フォルダーはそのまま残されます。つまり、変換時点までのメールデータは同じ内容が重複して存在することになります。
(将来的にどうなるかはわかりませんが、おそらく変換に失敗した場合に備えた保険的な動作なのだと思われます。)
また、<accountName-maildir> で運用したあと、再度 mbox 形式に変換した場合、元の <accountName> フォルダーではなく、新たな <accountName-mbox> フォルダーに変換後のデータが保存されます。変換前のデータがそのまま保存されるのは上記と同様なので、変換前のメールデータをユーザーが意識的に処理しない限り、二重、三重に存在するメール群が出てきます。
結果論ですが、現状ではユーザーの管理意識の外に重要なメールデータがそのまま残る場合も出てきそうです。ユーザーから見て Thunderbird 上で完全に抹消したつもりのメールが、保険的に維持された場所に残っていることがありえますから、とくに企業ユーザーは注意してください。
いちおう、maildir 形式も順当に進化していると見て差し支えないと思いますが、それでもまだ、mbox 形式と対等な選択肢にはなりきれていないようです。現状で maildir 形式を使うときは、その点に注意を払ってください。
(長くなるので、続きは別途投稿します。)